ねぇサンドラさん

ねぇサンドラさん

原作未読エルフ




「ねぇサンドラさん」

「なんなの?針坊」

「僕の武器は攻撃力1の針しかないんだよ」

「冒頭でいきなりタイトル回収とは恐れ入ったの。……別に褒めてないからドヤ顔するんじゃないなの。…それで?今更なんなの?針坊がその針のせいでクソ弱い事はエルフにとっては周知の事実なの」


「いや、それがね、僕もこれ何とか使えないかなぁってこの針の事を研究したんだよ」

「それは無理なの。だってそれ何かのバグで間違って武器にカテゴライズされちゃったちょっと大き目のお裁縫道具なの。針坊がこれ見よがしに右手に持って構えてる様は私がここで喋ってる以上にシュールで滑稽なの」

「えぇ?なんでサンドラさんがお喋りするのがシュールで滑稽なの?」

「多分おまえにはこう見えてると思うなの」

「うんうん、何時ものサンドラさんだね」


「でも実際にはこうなの」



「え?え?どういうこと?」

「……まぁそれはひとまず置いといてなの。それで針の研究はどうなったなの?故郷に帰ってお裁縫屋さんになる決心は出来たなの?」

「故郷の村からは忌む目のせいで追い出されてるから帰りたくても帰れないし、家は取り壊されて噴水になってたから住むところすらないよ」

「…軽口のつもりが重めのカウンターを食らったなの。え?噴水?」

「それでこの針なんだけど、ちょっと見て欲しいんだ。それっ!ステータスフルオープンっ(笑)」

「なんで自分で(笑)を付けたなの!?」


「いやこの掛け声って作中では僕が言った一回きりしか使われてなくて”これって必要な設定なのかな?”って考えたら何だか笑えて来ちゃって」

「私と初めて会ったジャンプラ版3話の話なの。たしかに後にも先にもそれっきりなの」

「そもそも身分証代わりにステータス確認してるっぽい世界観なのにステータス確認なんて本編では僕しかされてないからね?」

「いやいや、そんな筈は……マジなの?」

「僕を貶める為だけに存在するシステムだと思うと…その、フフッ、ブフォッ(笑)」


「何処にツボるところがあったのか皆目見当が付かないなのけど真面目にお医者にかかった方が良いなの。もちろん心の方なの」

「まぁそれは置いといて、この針の性能を見て欲しいんだ」

「あんまり気が進まないけど見るなの。……ふむふむ、天獄の縫い針。クラス:伝説級、攻撃力1、特殊効果:固定1ダメージ、呪い(装備解除不可)、よくもまあコレで武器を名乗れるものなの。☆1?もしかして同じ武器凸していくタイプのゲームが元ネタなの?これだけゲームっぽい感じにするならフレーバーテキストのひとつぐらい欲しいものなの…。この3つ目の特殊効果が空欄なのは何か意味があるなの?」


「さぁ?他の武器の性能とか見た事無いから比較も出来なくてコレが仕様なのか何かの伏線なのかもさっぱりだよ(笑)でも見て欲しいところはソコじゃなくて、この固定1ダメージのところなんだ。さて、固定1ダメージって言われたらどんな効果だと思う?ハイッ!サンドラさん!」

「え?え~っと、攻撃したときに相手に与えるダメージが固定で必ず1ダメージになる、なの?」

「ドゥルルルルルルル(口頭ドラムロール)」

「…」

「(息継ぎ)ドゥルルルルルル………」

「…」

「────正解っ!」

(うっざ…)


「つまり、どんなに身体を鍛えてムキムキマッチョに成っても、この針で攻撃すると必ず1ダメージになっちゃうんだよ」

「物理法則が乱れるなの」

「それで僕が編み出した戦い方が、はいっ皆さんご存知、クイックホニャララだね!」

「本人がご存知無いのはどうなの?」

「それもその筈、実はこの技名本編では一回しか出てこないんだ」

「さっきから使い捨ての設定多くないなの!?」

「しかも僕が心の中で言ってただけで口に出してすらいないから何処で見たか全然思い出せなくてもう一度1話から読み返す羽目になったよ」

「自分が主人公の漫画に羽目なんて言葉よく使えるなの」

「さぁこのクイックホニャララ、どういう戦い方かサンドラさんは知ってるよね?」

「自分は安全なところから相手を一方的にチクチクするなの」

「言い方がチクリとするけど、概ねその通りだね。でもここから先は実演したほうが早いね」

「実演?」

「やや!大変だサンドラさん!あそこに凶暴なアクティブモンスターが居るよ!」

「えっ?わ、わぁ〜本当なの〜、コワイなの〜」

「……」

「……」

「あ~、えーっと…じゃぁ早速実演してみるね」

「何で合わせた私のほうがスベった感じにされてるなの?」

「まずはこの針をスタンダードデルタフィンガーグリップでしっかり構えるでしょ」

「なんて?」

「だからこのスタンディングトライフィンガーで」

「さっきと違うなの!」

「もうっ、サンドラさん、今は凶暴な魔物が目の前にいるんだよ?申し訳ないけどそういうのは後にしてもらっていいかな?」

「コ、コイツ…」

「わかりやすく言うとダーツの持ち方の3フィンガーだね。これでしっかり魔物を狙って……フッ!」

「最初からそう言えなの…。あっ!当たったなの!結構距離あるのになかなか大したモノなの」

「へへへ、まぁ大分練習したからね…。ほんとにいっぱい、それはもう指の皮が裂けて指が千切れるんじゃないかって思うほど練習してて分かったんだけど、これそもそも敵には必中なんだよ」

「……………は?」


「この『固定1ダメージ』っていうのがどうも『攻撃したら絶対1ダメージ与える』って仕様みたいで、何処に刺さろうが、なんなら刺さらなくても辻褄合わせのために1ダメージ与えるみたいなんだよね。因果関係が逆って言うのかな?1ダメージ与えるために当たるんだ。だからほぼ必中なんだよ。ちなみにカカシやマトに投げた場合は普通に外すから練習じゃ気付けなかったんだよね」

「????」

「だから、はぁ〜よっこいしょ。こんな感じで横になりながら、こう、よっ!っと適当に投げても当たるし、こう『この針装備外したいな〜』って思いながら投げたら呪いのせいで当たった瞬間に手元に戻ってくるから、もう手首のスナップだけでクイックナンチャラが出来るんだよね」

「見た目はアレなのけど、それって目茶苦茶、凄いんじゃないなの…?」

「フフフ…」

「……」

「……たくさん、練習、したんだよ?」

「指が千切れる前に気付けて良かったなの…」

「でもまぁ!だから1ダメージとは言え安全圏から一方的に敵をサンドバックに出来るんだ。まるでネットの匿名でやる誹謗中傷の様にね!」

「私が言うのもなんだけどもっと世界観と自分は大事にするなの……」

「なんて言ってるうちに魔物をやっつけたね。ペコリっと」

「まるっきり気持ちがこもってないおじぎなの」

「僕ってどういう気持ちでおじぎしてるんだろうね?殺してごめんね的な感じ?それとも僕の経験値になってくれてサンキュー!みたいな?相手眼の前で今まさに死んでるのに誰にアピってるんだろうね?サイコパスかな?」

「自分でやっておいて正気を疑う質問を私に投げかけるのやめろなの。…でも結構あっさり倒してて感心したの」

「HP50以下の魔物は近付かれる前に倒せるようになったよ。それ以上は流石に間に合わないからクイックゴロ寝トリックは出来ないかな」

「雑魚戦はまじでゴロ寝でやってるなの!?」

「まさかぁ、皆が見てないところでだけだよ。普段はちゃんと”これだ!”って感じの投げ方してるよ」

「観光客相手の秘境部族みたいな事言ってるなの。でも針が”必中”持ちなんて凄いことなの」


「実はこのクイックゴロ寝も”経絡”の登場で必要なくなる可能性が高まってきたんだ」

「もはや素早く寝転がるだけになってるの。経絡ってクオンツの里で習ってたやつなの」

「経絡って相手を弱らせたり、自分を強くしたり、昏倒させたり、即死させたりできるんだけど」

「はぁ〜凄い事が出来る技なのね、まるで針坊の為に在るようなの技術なの」

「ぜつ…ぜっ、…即死技って扱い難しいよね」

「思い出すのを諦めんなの、”絶魂”なの。確かに強力な技で扱いが難しそうだと思うなの」

「まだHPを1ずつ削る意味在ると思う?」

「………………け、牽制とか……」

「まぁ漫画的な表現じゃ【なんか攻撃してるけど全然通用しない攻撃】みたいな表現しかできないんだよね」


「………まぁここで敵と読者の感想が一致しちゃうのはたしかにちょっと……なの」

「それに今後敗北どころか苦戦も厳しく見られるよね。即死使わなかったらナメプ扱いされちゃうし、僕が”相手を殺したくない”みたいなスタンスでもきっと”上から目線”とか”即死技持った途端に強者のつもり?”とかとか言われちゃうんだ。相手を一撃で倒せる文字通り必殺技を持ってるのにチクチクだらだらナメプするわけだからね。逆に使ったら使ったで何言われるか分かったもんじゃないよ。ザラキ針八とかクリフト針太郎とか言われちゃうんだ」

「ネガティブが過ぎるなの…、穿ち過ぎじゃないなの?」

「針だけに?」

「やかましいなの」

「でも本当にこの『針』と針を使って経絡を突く『ゴシン流』は相性抜群なんだよね。まるで物語の都合で生えて来たぼく専用技じゃないかと勘繰っちゃうぐらいに」

「余計な勘繰りは止めるなの。……確かに必ず1ダメージ与えるなら、つまり絶対刺さるってことなの。だから相手の防御力を貫通して経絡を刺せるって寸法なの」

「………」


「ん?何か違ったなの?……あっ!!」

「お気づきになりましたか」


「孔明顔やめろなの。アドラメルクなの!あいつは飛んでくる針を弾いてカウンターしてたけど刺さってはいなかったの!でも1ダメージはあるから指がヒリヒリしてたなの!ちゃんと通用しない相手もいるってことが初期から示唆されているなの!」




「いや、読者には全然刺さらないなって」

「いい加減にしろなの」



tbc…


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